PRODUCTION NOTES
撮影現場レポート・その1
クランクインで見せた
木村拓哉の役との向き合い方
鈴木監督が目指した映画における
“マスカレード・ホテル”像
木村拓哉演じる新田浩介の撮影は、潜入捜査をする刑事たちが集まるホテル・コルテシア東京内に設置された現地対策本部のシーンから始まった。千葉のフライトキッチン工場に組まれたセットにはあちこちに「HOTEL CORTESIA TOKYO」のロゴの入ったダンボールが積まれ、食器にタオル、ホテルのあらゆる備品が棚に陳列されている。ホテルのバックヤードの一角に対策本部が設置され、ホワイトボードに書き出された捜査情報をもとに、管理官の尾崎(篠井英介)と係長の稲垣(渡部篤郎)が捜査会議の指揮をとっている設定だ。鈴木監督から刑事役の俳優たちに「大人しすぎる、優しすぎる、刑事はもっと荒くれ者でいい」と指示が入る。この先で描かれる、刑事とホテルマンとの対比を出すための演出だ。少し遅れて新田がやって来る。木村のファーストカットだ。セリフは稲垣の「新田、遅えぞ」に対する「すみません」のひと言だが、わずか数秒のやり取りで、木村は新田がどういうキャラクターであるのかを明確に見せる。台本には「『すみません』と悪びれるところもなく席に着く」としか書かれていないが、口調、ややうつむき加減の姿勢、傍にいる先輩の本宮(梶原善)や後輩の関根(泉澤祐希)との無言のやりとりからも、新田が捜査一課のなかで問題児であることは一目瞭然だ。そこに居るのは、新田を演じている木村ではなく、頭の天辺から足の爪先まで新田浩介そのもの──木村拓哉の作品に対する姿勢、役との向き合い方が伝わってきた。クランクアップ後に鈴木監督が「木村は役者をなめてない、あれだけのスターなのになめてない」と感心していたのは、現場でのそういう在り方も含まれるのだろう。実際、出番ではないシーンも木村はセットの端から撮影風景を見ていた。撮影の合間には、鈴木監督と木村が作品について話すこともあった。鈴木監督はこの『マスカレード・ホテル』のイメージとして、ホテルそのものには『007 ロシアより愛をこめて』のようなエレガントさとスタイリッシュさを感じており、そのホテルにやって来るお客様は『シャレード』で描かれるような“全員が怪しい”というキャラクター性を求めているのだと語っていた。そのキーワードを木村はしっかりと受け取り、その後の演技に反映させていたのは言うまでもない。また木村をよく知る鈴木監督だからこそ、木村拓哉らしくも新しい木村拓哉の演技を引き出している、そう思える瞬間がいくつもあった。たとえば、新田がホテル・コルテシア東京を初めて訪れる冒頭のシーンでは、コーヒー片手に客を観察している。コーヒーを飲みながらのスタイルは木村のアイデアで、他にもラストの潜入捜査が終わり制服を返すシーンは木村の提案だという。新田を隅々まで理解しているからこそ生まれた演技だ。そして現場のスタッフ&キャストへの気配りを欠かさないのも木村らしさ。ホテルのセットの床は絨毯が敷かれ、スタッフは常に掃除をしなければならなかった。その姿を見ていた木村は、広いセットの掃除が少しでも楽になるようにと高級掃除機を2台差し入れている。常に現場目線の木村らしいエピソードだ。